プロ野球の特殊性〜CS・日本シリーズ考察

はじめにことわっておくが、長いくせにこの記事に結論はない。ただ、いろいろと取りざたされているNPBクライマックスシリーズ(CS)や日本シリーズの現状について考察したのみである。

2010年の日本プロ野球の全日程が終了した。結果はマリーンズ党の私にとって満足のいくものであった。しかし万人に納得のいく結果であったかと言うと、それは否であろう。とくに、ペナントシリーズ3位であったマリーンズがCSを勝ち進み、結果日本シリーズも制してしまったことにより、ペナントシリーズの価値に大いに疑問符がついてしまっている。これは、ポストシーズン制が導入(復活?)されて以来ずっと言われていたことではあるが、今年ついに、懸念されていたペナントシリーズ3位のチームの日本シリーズ優勝という結果となったことにより議論があちこちで爆発した、と言うのが現状だ。

ペナントレース3位までが日本シリーズに出場する権利を有すると言う、CSに違和感や疑問を感じるのは理解できる。しかし、考えてみるとCSと同様のシステムは他のさまざまなスポーツで採用されている。私はプロ野球のほかにラグビーの観戦が好きなのでラグビーの話をすると、プロ野球ペナントレースに相当するものが、トップリーグのレギュラーシーズンだとすれば、その後上位4チームが出場するプレーオフトーナメント(旧マイクロソフトカップ)、さらにラグビー日本選手権が存在する。学生にしても、対抗戦、リーグ戦などの後に大学選手権・日本選手権が控える。ところが、プレーオフに負けたからと言ってレギュラーシーズンでの結果の価値が下がると言うことはあまりないように思う。よくは知らないがサッカーやバレーボールなど他のスポーツについてもラグビーと同様ではないだろうか。

なぜプロ野球でだけこのような議論が毎年繰り返されるのか?私はレギュラーシーズン(ペナントレース)が年間144試合も行われると言うプロ野球の特殊性にその原因があると考える。1シーズンが144試合、半年以上にわたって行われるスポーツを私は他に知らない。ラグビートップリーグは総当たりではあるが各チームは1度しか対戦しない。サッカーJリーグは18チームもあるので期間も試合数もそれなりに多いが、総当たりでホーム・アウェイの2試合づつで計34試合だ。バスケットボールやアイスホッケーの日本リーグは総当たりで各6回戦全部で36試合行われるそうだが、それでもプロ野球に比べればはるかに少ないと言える。このプロ野球の長く多いレギュラーシーズンに比して相対的にCSや日本シリーズの位置づけが高すぎること(レギュラーシーズンの位置づけが低すぎること)が現在の我々が感じる違和感に繋がっているのではないだろうか。

では、なぜこんなにレギュラーシーズンが長いのか?もともとの経緯は知らないが、少なくとも現在のプロ野球はレギュラーシーズンが長いことを前提にさまざまな戦略が成り立っている。特に戦局に最も影響を及ぼす"投手"を試合ごとにローテーションで戦略的に変えると言うことが、プロ野球の特殊性の最たるものだ。他の多くのスポーツは怪我などが無い限り毎試合同じメンバーで戦う。したがって、多くの試合を行ってもチームの優劣を決めるうえで、あまり意味はない。ところが、プロ野球は投手が変わることが、試合を多く行うことに有意性を与えている。極端な話をすれば、昨日のチームと今日のチームは全く別なのだ。尤も、先に長いレギュラーシーズンがあって、それを乗り越えるために投手をローテーションで回すと言う戦略ができた、と言うのは想像に難くないのだが、それでも現在のこのシステムがプロ野球の欠くことのできない重要な要素の一つとなっているのは事実だ。


ペナントレース優勝」の価値はファンには、ある程度、認められているはずなのだが、1シーズンがあまりにも長すぎるために、それに相応しいだけの価値を与えることがなかなかできない、と言うのが私の考えだ。それでは、どうすれば皆が納得するシステムができるのか?いくつか考えられる案と考察を以下に述べる。

CS・日本シリーズの価値を低くする

これは、相対的にペナントレースの価値を高める、と言うことである。現状でもCS優勝自体に大きな価値を認めるファンはそれほど多くないと考えているので、日本シリーズに限った話をするが、『日本シリーズ優勝=日本一』の称号を廃するだけで、それなりの効果はあるかもしれない。もっとも日本一の称号はレギュラーシーズン3位のチームが優勝した事実だけで否定されるべきなのかもしれない。ただ、『日本シリーズ優勝=日本一』と考えているのはNPBだけでなくファンの深層心理にもすでに浸透していると思われるので、効果は限定的だろう。第一、あまりに後ろ向きな思考なので個人的には賛成できないものだ。

CS(ポストシーズン)を撤廃する

元に戻るだけだが、これで納得するファンも多いかもしれない。ただ、消化試合を減らしリーグを盛り上げると言った興行的なCSの成功は否めず、プロ野球が今後存続していくためには必須だろう。私自身CSの真剣な戦いが大好きだ。これも個人的には嬉しくない。

ペナントレースの試合数を減らす

現在のペナントレース優勝の価値を現状に即した形に近づける、と言うものだ。先に書いたように、試合数が多いことはプロ野球の欠くことのできない重要な要素の一つではあるのだが、それでも144試合というのはあまりにも多い。現状の1節で3試合おこなうのを2試合に減らすと言うのは無理な話なのだろうか?検討には値するかもしれない。ただ、レギュラーシーズンが早く終わってしまったら、ポストシーズンに進めなかったチームは一体どうしたらいいのか、と言った問題点は多いと思う。また、ファンとしては試合数が減ることは歓迎できないので、その分ポストシーズンの試合を増やしてもらわないと合わないが。

ペナントレースを前期・後期に分け、ポストシーズンを復活させる

単にCSを撤廃する効果しかないし、前期優勝のチームが日本シリーズに出場しても違和感が現状より増すだけだろう。これは大いに反対したい。

ペナントレース優勝チームにさらに大きなアドバンテージを与える

それでもCSを突破できない可能性はゼロでは無い。あまり大きなアドバンテージを与えるとCSをやる意味が全くなくなる。キリが無いので、現状でも十分だと思う。

2リーグ制を撤廃し、1リーグ制にしてCSを廃止する

今のところ、これが最も理想的だ。日本では地理的な理由でリーグが分裂しているわけでは無いので、ファンからすれば2リーグに分裂している意味はそもそも存在しない。ただ、2リーグに分裂した経緯は別のところにあると思うので実現は難しいのだろう。また、チーム数が増えることにより消化試合が増える可能性が高いので、CSは撤廃してもなんらかのポストシーズン制は導入する必要はあるだろう。そうすると、議論が元に戻ってしまう。

CS・日本シリーズのシステムを変える

これは、今まで述べたものとは少し毛色が違う考えだ。そもそも、CS・日本シリーズペナントレースと同様に複数回対戦することでチームの優劣を決める、と言うことが中途半端にペナントレースとの継続性を強調してしまっているのかもしれない。CS・日本シリーズを全く別のシステム(たとえば1回戦のトーナメント方式)にするだけで、ペナントレースとは別ものと言う考えが産まれ、CSや日本シリーズによりペナントレースの価値が下がることも無くなるかもしれない。しかし、先に書いたように複数回試合すること自体がプロ野球の欠くことのできない重要な要素だ。それを無くしてしまったらプロ野球ではなくなってしまうだろうし、ひいては日本シリーズの価値を決定的に低下させてしまうだろう。もしも1回戦のトーナメント方式とするのであれば、プロ野球の枠を撤廃し、サッカーの天皇杯のようにプロ・アマ混合のトーナメントとしてもらいたいものだ。


やはり、どれも決定的な案ではない。それならば、今のままでも良いと個人的には思うのだが、毎年同じことが議論されるのにも辟易している。まして、自らの贔屓チームが優勝した時などはケチがついたなどと考えてしまうのが正直なところだ。すべてのファンが納得するような素晴らしいアイデアがあれば良いのだが。

最後に、私の考える理想的なシステムは次のようなものだ。

1リーグ制に移行し、CSは撤廃する。ペナントレースの試合数は少し減らす。ペナントレース優勝者に日本一の称号は与える。日本シリーズは存続しポストシーズンとしてペナントレース上位4チーム程度でおこなう。ペナントレースを減らした分、クラブチームのワールドカップ的なものを日本シリーズ優勝者が出場して、第三国で開催する。

こんなシーズンを過ごせるのはあと何年後やら。下手すればずっと無理だな。